メアリー・アレンの手袋のことなど


すでにアゴに敷かれています。
「もう俺のもんだ」って感じのふてぶてしい目つきをご覧ください。


#34 編みこみのてぶくろ

-デザイン 『暮らしの手帖12月号』より 三國万里子
-使用糸 ROWAN felted tweed #171 ウール50% アルパカ25% ビスコース25%
- Agua コットン25% ウール20% レーヨン20% ナイロン25% アンゴラ10%
-使用量 ROWAN felted tweed 20g Agua 35g
-使用針 7号4本針
-変更点 作り目と手首のリブは4目多く、親指2段短く。

糸の渡し方はベース糸(ベージュ)を上に配色糸(ネイビー)を下にしました。糸の持ち方はベース糸を右手に、配色糸を左。基本フランス式です。



さてさて、うっかり出てきたてぶくろキットですが、『毛糸だま 1992年 10月』号に

幻の手袋メアリー・アレン物語

という記事があり、日本ヴォーグ社の「メールサービス(emailじゃなくて専用はがきね)」で扱われたもののようです。4000円。

編み物研究家のスー・レイトン・ホワイトさんが、そもそもは『デイルズの昔の手編みニッター』という本を読み、イギリス諸島の伝統的な編み物についてほんのわずかしか知られていないこと(アラン、フェアアイルシェトランドレース、ガーンジーセーターなどは非常に良く知られているのに)驚き、ヨークシャーの手編み手袋について調べだしたのが始まり。
 その後彼女はデイルズからデントを尋ね、博物館所蔵の2色編みこみ手袋のほとんどを編んだとされるメアリー・アレンを知り、ついにはワーズワース博物館でメアリーのてぶくろを見つけ許可を得てオリジナルからパターンを起こしたということです。

彼女は「それまでに一度も手袋を編んだことがなく」博物館が提供してくれた「何枚もの細部の写真」から「複製を作った」と書いているので、不安は残るのですが。

少なくとも図案と説明書からは「この手袋は他のどの手袋の編み方とも、指のまちの部分が異なっていました」という異なりは見て取れない気ががします。

ともかく一連の記載の中に「サンカ」というエリアは一度も登場していないのでサンカ伝統の手袋とは別のものだということではないでしょうか?
時代もメアリーのほうが古いようですし。

ただ、どちらの手袋も白と黒の2色で編まれています。
当時は無染色で羊そのままの色で編まれていて、褐色〜黒の羊のほうが数が少なく貴重だったため、白と黒の生み合わせは「華やか」だったようです。

サンカグローブはその土地に根ざした防寒用、メアリーさんのは生活のために編んで買い上げられたものやオーダー品(シルクのものもある)という違いもあると思います。

デント(というかヨークシャー地方)には、17世紀から続いた編み物産業は残っておらず、シースをつけて3本の針ですさまじい速さで編むニッターたちも生存していません。ホワイトさんが訪れた頃が歴史を知る人々が生存する最後だったのではないでしょうか?

サンカグローブのほうは伝統として残り、サンカで生まれたデザイナーが新しいサンカグローブを発表していると聞きます。

わたしたちから見たら同じように見える2色のてぶくろにもいろいろな背景や歴史があるものですね。

ちなみにむかしわたしが編んだ2色のミトンは、ルーツがセールブー・コフタ(ノルウェー)で、今も残る伝統的なパターンを『毛糸だま1994年12月号』に黒ゆきこさんが発表したものです。

古い本を探してあちこち読んでいるうちに編み方のページが出てきて、しかもサイズ合わせのための鉛筆による書き込みががっつりあるのを見つけてしまいましたよ。


  • 日本ヴォーグ社『毛糸だま』1992年10月号「幻の手袋メアリー・アレン物語」

 デイルズ田園博物館@ホーズ にはメアリーが第一次大戦中に息子のために編んだ手袋とシースが展示してあるそうです。